IBDと貧血
1990年代以降、急激に患者数が増えている炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)1。IBD患者さんの多くが、腸管粘膜からの慢性的な出血と鉄吸収の低下、炎症による鉄利用の障害が主な原因で貧血を伴っている可能性があります2。
(画像はイメージです)
1990年代以降、急激に患者数が増えている炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)1。IBD患者さんの多くが、腸管粘膜からの慢性的な出血と鉄吸収の低下、炎症による鉄利用の障害が主な原因で貧血を伴っている可能性があります2。
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炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; IBD)は、腸に炎症を起こす多くの病気のうち、特に潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis; UC)とクローン病(Crohn's Disease; CD)のことを指します。原因不明の病気であり、長期間の治療が必要となります。病状が悪い時期(活動期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すのが特徴です。
IBDでは、下痢・腹痛・血便・貧血といった症状が見られます(図)1。IBDの患者さんの貧血では鉄欠乏性貧血が最も一般的な原因であり、QOL(生活の質)を低下させることが報告されています3。
(難治性炎症性腸管障害に関する調査研究, 2007)
以下のような症状がある場合には鉄欠乏性貧血の可能性があります4,5。しかし、中にはIBDによる症状と似ているものもあります。以下の症状があったとしても、貧血によるものなのか判断が難しいため、まずは医師に相談してみましょう。
「運動しているわけでもないのに毎日極端に疲れる」「出かけるのもしんどい」など日常的に疲れを感じているのであれば、貧血の可能性を考え医師に相談してみましょう。
鉄欠乏性貧血以外の貧血に対しても、IBD患者さんでは注意が必要です。
関節リウマチなどの自己免疫疾患、抗酸菌や真菌などによる慢性感染症、慢性心不全、Castleman病などの慢性疾患にみられる二次性貧血で、IBDも原因の一つになり得ます。ACDについては、まずは原疾患を治療することが貧血の改善に繋がります4。
腸からのビタミンB12や葉酸の吸収が低下することで起こります6。
IBDの治療薬には、貧血・出血傾向を伴う血球減少、再生不良性貧血といった副作用を起こす可能性があるものもあります7。
IBD患者さんでは、鉄欠乏性貧血だけでなくACDや薬剤性貧血を合併していることが少なくありません。そのため、鉄の補充だけでなく原疾患の改善をはかる必要があります4。また、IBD患者さんの鉄欠乏性貧血治療では、鉄剤の内服薬は腹部症状を悪化させたり、十分に吸収できない可能性があるため、特に活動期の患者さんには注射剤の使用も検討します⁴。なお、鉄剤の内服薬で副作用が発現した場合も、別の薬に替えることで改善することもあるので、自己判断で治療をやめることはせず、医師に相談しましょう。
本記事のご監修
小林拓先生
北里大学北里研究所病院
炎症性腸疾患先進治療センター
センター長